乗車日記⑤~鬼
川の南側には黄泉の国が広がっている。
その黄泉の国から一人の鬼が川を越え、IC
カードを取り出し電車に乗った。
今日の彼の仕事は選挙ポスターのチェックだ。
向かってくる電車に乗っている人の顔はいつ
もたいして変わりはない。
昨日まで単線だったのになと彼は思う。
「僕らは心臓がないのにどうやって生きてい
るの?」
と幼い頃彼は母親に聞いたことがある。母親
は適当にはぐらかしていた。
空いているかと思って一番前の車両に乗った
のに、ほぼ満員だった。
みんな衝突事故があったことなんて忘れてし
まっているに違いない、でなきゃ一番前にな
んか乗るものかと思っていたら正面から電車
がやってきた。
彼の短い生涯は幕を閉じた。