乗車日記⑥
「白いシャツを着た女なんて山ほどいるだろうが!」
イヤホンのコードを振り乱し、K駅の喧騒をかき分けながら彼は叫ぶ。
観光客がごった返すこの駅で、このような派手な行動は
目立って仕方ないが、この際構ってはいられない。
「方角、身長、あと聞いている音楽だよ!もう時間ないだろ!」
※20×0年以降に埋められたとみられる人間の化石には例外なくイヤホンが
附属されていた。
…見つけた、あれだ。
課長クオリティーという流行りのバンドを聞いている。
電子音のイントロをバックに彼は徐々に彼女に近づいていく。
5、4、3、2、1…
「タンッ!」
スネアドラムが鳴り響く。同時に彼は巨大な鎌で彼女を斬りつける。
乗車切符がはらりと落ちる。見えない血しぶきを上げながら、彼女は静かに
倒れ込んだ。
軽やかなリズムとピアノのステップだけがK駅の中で踊っている。